
氷雨先生の ご連絡です
terriさん、お久しぶりです。
八月になりましたね。
氷雨です。
窓の外ではまだ陽が落ちきらず、研究室の中にも西日の残り香のような熱が籠もっている。
僕のような人間は年中研究室にいる為あまり季節の移ろいに敏感ではないのだが、さすがにこの時期ばかりはホットコーヒーからアイスコーヒーに切り替えざるを得ない。
尤も、豆も淹れ方も変えるつもりはないので、単に氷を足すだけの話だが。
さて、今日は八月の初日ということで、一つ僕の習慣についてお話しさせてください。
僕には月が変わる度に行っていることがある。
前月のあなたの波動観測データを全て並べ直し、一か月分のデータを一枚のグラフとして俯瞰する作業だ。
毎晩の観測では、その日その日の波動の状態を点として記録している。
一日単位で見ていると、小さな上下動に意識が取られるものだ。
前の日より少し上がった、その前より少し下がった。
そうした細かな揺れは毎日のように起こるものであり、それ自体は特筆すべきことではない。
しかし、月が変わったタイミングで一か月分の「点」を線として繋いでみると、日々の観測では見えなかった大きな流れが浮かび上がることがある。
木を見て森を見ず、という言葉があるが、まさにこの月初の俯瞰作業は「森を見る」為の時間だ。
…terriさん。
先ほど、七月分のデータを並べ終えた時。
僕は思わずペンを置き、グラフを二度見返しました。
一度見ただけでは信じ難かったからだ。
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<7月 波動温度推移>
7月上旬 ……… 36.1℃ ~ 36.4℃
7月中旬 ……… 36.3℃ ~ 36.8℃
7月下旬 ……… 36.7℃ ~ 37.2℃
※安定域:36.0℃前後
※7月を通じた上昇幅:約1.0℃
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日々の観測記録を一つ一つ見ている時には気付けなかった。
小さな上下動の奥に、一貫した上昇曲線が隠れていたのです。
一か月かけて、あなたの波動温度はおよそ1度上昇していた。
数字だけ見れば「たった1度」と思われるかもしれない。
しかし波動温度における1度は、体温における1度とは意味が全く異なるのだ。
体温が36度から37度に上がれば微熱だが、波動温度が1度上がるということは、運命の根幹を流れるエネルギーの密度が段階的に引き上げられたことを意味する。
そして何より僕が注目したのは、この上昇の要因だ。
守護存在の加護によるものでもなければ、特別な吉日の恩恵でもない。
僕の鑑定による介入でもない。
上昇の要因は、terriさん、あなた自身の七月の歩みだ。
以前お話ししてくれた気功整体であったり、あなたがご自身の内側に目を向けられたことも無関係ではないだろう。
記録を一つ一つ遡れば、それは明らかだった。
波動温度が上がった日は決まって、あなたが何かに真剣に向き合った日だった。
誰かの為に動いた日。自分と向き合った日。辛くても足を止めなかった日。
一日一日は微かな上昇に過ぎなくとも、三十一日分の歩みがこの曲線を描いていた。
俯瞰して初めて見えたこの事実に、僕は鑑定師としてではなく、一人のあなたの観測者として深い敬意を覚えたのです。
terriさん、ここからが最も重要な話だ。
七月分のグラフを見た僕の中に、一つの仮説が浮かび上がった。
波動温度には「沸点」が存在するのではないか、と。
水が100度に達した時に沸騰し、液体から気体へと姿を変えるように。
波動にも、ある臨界点を超えた瞬間に運命そのものが質的な変化を遂げる閾値が存在するのではないか。
そしてあなたの波動温度は今、七月の歩みによってその臨界点に手が届こうとしている。
この仮説を確かめる為に、これから集中的な鑑定に入ります。
1時間後にはあなたに全てをお伝えできるはずだ。
仮説という言葉を使ったが、正直に言えば僕の中ではほぼ確信に近い。
あなたの七月の歩みが積み上げてきたこの熱は、偶然の産物ではない。
ならば、この熱が向かう先にも必ず意味があるはずだ。
八月の初日。
新しい月の最初の夜に、あなたの運命が次の段階へ踏み出そうとしている。
七月のあなたの歩みが、その扉を開こうとしているのです。
氷雨 愛(ひさめ いとし)
