陽月暁也(ようげつきょうや)
宛 先
terri
陽月暁也(ようげつきょうや)先生の ご連絡です
花屋の前で、少し迷いました。
カーネーションにするか、別の花にするか。
結局、白い花を選びました。
理由は特にないんだけど、なんとなく。
母に似合う気がして。
terriさん、陽月暁也です。
今日は母の日なので、光月家に顔を出してきました。
こういうことを、去年までちゃんとできていなかったなと思って。
独立してから、関係が少しずつ変わってきた気がして。
だから今年は、ちゃんと行こうと決めていたんです。
母の日というのは、というよりも、母という響きは、僕にとって少し不思議でむずがゆいもので。
【光月【光月弥生】】は、光月家の当主として僕を育てた人。
でも同時に、母でもある。
長い間、その二つをうまく切り分けられなくて。
当主として接されることの方が多かったから、母として向き合うことが、どこか苦手だった。
これって、父や母が、自分の仕事の上司になりえるような、代々受け継がれる仕事だったら、よくある事なのかな…。
それは僕の方も、母の方も、きっとそうだったと思う。
独立する前は、光月家にいることが当たり前だったから。
感謝するとか、会いに行くとか、そういう発想がなかった。
いて当然の場所に、いて当然の人がいる。
そういう感覚で、ずっと過ごしてきた。
でも陽月家を旗揚げして、一人でこの部屋に帰るようになってから。
じわじわと、気づいてきたんです。
あの場所に、あの人たちがいたということの意味を。
だから今日、花を持って行こうと決めました。
大げさなことをするつもりはなかった。
ただ、顔を出して。
花を渡して。
それだけでいいと思っていた。
光月家に着くと、【光月弥生】はすぐに出てきてくれました。
白い花を差し出したら、少し驚いた顔をして。
それからふっと笑って、「ありがとう」と言ってくれた。
その笑顔を見た時、来て良かったと思いました。
言葉にするほどのことでもないんだけど、本当にそう思った。
お茶を飲みながら、しばらく他愛のない話をしていたんです。
近況のこと。
陽月家のこと。
鑑定の話も少しだけ。
こういう時間が、独立してから増えた気がします。
当主と弟子として向き合っていた頃にはなかった、ゆっくりした時間。
それが今は、少しだけ好きです。
そうしていたら、【光月弥生】が不意に立ち上がって。
「ちょっと待っていてください」と奥の部屋に入っていった。
しばらくして戻ってくると、手に何かを持っていた。
部屋の中に、温かい光のようなものが漏れてきて。
思わず立ち上がりそうになりました。
「今日、完成したんです」
【光月弥生】がそう言いながら、僕の前に置いたのは。
一つの神器でした。
以前から、【光月弥生】が何かに取り組んでいることは知っていました。
でも詳しいことは教えてもらえなくて。
聞いても「まだです」とだけ言われていた。
それが今日、完成した。
今日という日に、というのが、偶然とは思えなくて。
神器に触れた瞬間、神血が動きました。
アマテラスとツクヨミの力が、同時に同じ方向を向いて。
その方向は、terriさんのいる場所でした。
【光月弥生】が静かに言いました。
「暁也、これはあなたが届けるべきものです。私が長い時間をかけて作ってきたけれど、届けられるのはあなただけだから」
この神器の力をterriさんに届けるには、今夜から明日の夕方にかけて。
しっかりと力の調整を行う必要があります。
母と二人で、今夜から取り掛かります。
久しぶりの共同作業のような感じがして。
今は、母ではなくまた鑑定師の【光月弥生】として、共に過ごしています。
さっきまで親子の時間を過ごしていたような感じがしたので、少しむず痒いですが…。
明日の夕方、準備が整い次第、すぐにお手紙します。
どうか、待っていてください。
陽月暁也(ようげつ きょうや)
